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東京高等裁判所 平成3年(行ケ)243号 判決 1992年11月26日

名古屋市中区金山5丁目2番22号

原告

矢嶋工業株式会社

同代表者代表取締役

矢島茂

同訴訟代理人弁護士

安江邦治

同訴訟代理人弁理士

飯田堅太郎

飯田昭夫

大阪府堺市槙塚台2丁目20番地の11

被告

青山好高

同訴訟代理人弁理士

和田成則

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者双方の求めた裁判

1  原告

(1)  特許庁が平成1年審判第20910号事件について平成3年8月29日にした審決を取り消す。

(2)  訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文同旨

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

被告は、名称を「複数種類の部品用パーツフィーダー」とする実用新案登録第1416080号(昭和52年11月22日実用新案登録出願、昭和56年5月14日実用新案登録出願公告、昭和57年1月29日設定登録。以下この実用新案登録に係る考案を「本件考案」という。)の実用新案権者であるが、昭和60年8月13日本件考案について訂正審判の請求をし、昭和60年審判第16718号事件として審理された結果、平成元年6月19日これを認容する旨の審決がされた。この訂正に対し、原告は、平成元年12月19日訂正無効の審判を請求し、平成元年審判第20910号事件として審理された結果、平成3年8月29日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は平成3年9月29日原告に送達された。

2  本件考案の訂正の要旨

本件考案に係る昭和56年実用新案出願公告第20412号公報登載の明細書(以下、この明細書を「訂正前明細書」といい、上記の実用新案出願公告公報を単に「出願公告公報」という。別紙第1参照。)は、昭和60年審判第16718号の審決により登録実用新案審判請求公告第262号公報登載の訂正明細書(以下、この訂正明細書を単に「訂正明細書」といい、上記の登録実用新案審判請求公告公報を単に「審判請求公告公報」という。別紙第2参照。)のとおり以下の点が訂正された。

(1)  訂正前明細書の実用新案登録請求の範囲(昭和55年10月5日付手続補正書6頁)4行(出願公告公報1欄19行)「接続した送出板を」の次に、実用新案登録請求の範囲の減縮を目的として、「部品容器の直径方向に張出した状態であると共に」を加入する(以下において、この訂正を「訂正事項(1)」という。(2)以下の訂正についても、順次同様の呼び方をする。)。

(2)  訂正前明細書3頁10行(出願公告公報2欄26行)「5には」を、明瞭でない記載の釈明を目的として、「は第3図の符号5で示した部分であり、」に差し替える。

(3)  訂正前明細書3頁11行(出願公告公報2欄27行)「送出板8は」の次に、明瞭でない記載の釈明を目的として、「部品容器の直径方向に張出した状態であると共に」を加入する。

(4)  訂正前明細書6頁1行ないし6行(同手続補正書5頁3行ないし11行、出願公告公報4欄20行ないし28行)「この考案によれば、(中略)解決するのである。」を明瞭でない記載の釈明を目的として、「この考案によれば、螺旋形段部の上部終端部位に接続した送出板を部品容器の直径方向に張出した状態であると共にその外周端部が低くなるように設置し、仕切部材と寸法計測部材で送出板を二つの部品区域に区分して小部品区域内の過剰小部品を送出板から落下させて部品容器内へ回収する手段を設けたものであるから、つぎのような作用効果がある。

すなわち、螺旋形段部に沿って移動して来た部品の内、小部品は全てのものが確実に小部品区域へ送られ決っして大部品区域へ移送されるようなことがない。これは、過剰小部品の回収手段によって部品停滞を防止しているためであると共に送出板の張出し構造によって小部品区域をできるだけ広く確保して回収手段を無理なく設置し、また広い小部品区域によるひっかかりのないスムーズな小部品流動が得られるためである。さらに、送出板の張出し構造は必要な広さを確保できるので過剰部品の落下手段に要する構造や寸法、たとえば接手管24と25の間隔を大きくしたり排出口17の大きさを十分なものにしたりすること、等を必要に応じて無理なく設定できるから、過剰小部品の処理が円滑になし得る。そして、送出板が張出しているものであるから、回収手段の一部に受箱19を採用する場合には、送出板の下側において受箱を部品容器の外周壁に固定することができ、送出板の下側のスペースを有効に活用してコンパクトな構造とすることが可能となる。」に差し替える。

(5)  図面の第3図を、明瞭でない記載の釈明を目的として、添付図面のとおり補正する。すなわち、上部終端部位5の符号の記入箇所を添付図面のように上方へ移動させ、寸法計測部材14の前側に送出板8の符号を新たに記入する。

3  審決の理由の要点

A  本件考案の訂正の要旨は、前項記載のとおりである。

B  これに対し、審判請求人(原告)の請求の理由の概要は、以下のとおりである。

(Ⅰ)訂正事項(5)、(2)の訂正は、出願公告公報の第3図において開示していた、上部終端部位5に連接し、寸法計測部材14により外側に形成されていた形状の送出板8を、螺旋形段部の上部終端部位を上壁縁15の延長線上に至るまでのところと位置付けし、送出板は上壁縁15の延長線以降にあって寸法計測部材14の内外にまたがった外周壁18の外周に沿った広い範囲にわたって形成された形態に変更するものである。また、出願公告公報の第3図において開示していた、上部終端部位5において部品容器3の直径方向外方に寸法計測部材14を配置させていた形態を、上部終端部位5の位置をずらしたために送出板8上に寸法計測部材14を配置させる形態に変更するものである。

これらの変更は、出願公告公報掲載時に、明らかに上部終端部位を構成していた部位を上部終端部位でなくするように変更するものであり、要旨及び実施例の変更である。また、出願当初の図面において、第2、3、4図の符号5の位置は同一であるので、これらの変更は、出願当初から開示された範囲でもなく、出願当初の内容から当業者が推測できる範囲でもない。むしろ、この変更は、明確に図示されている螺旋形段部の上部終端部位及び送出板の位置関係を第2、4図と第3図で相互に矛盾するようにしたものである。変更された第3図の符号8で示す送出板は、前記したように上壁縁15の延長線以降で仕切部材13の両側にまたがって存在しているが、第3図の(4)-(4)線の断面図たる第4図を見ると、(4)-(4)の位置において螺旋形段部の上部終端部位5及び送出板8が仕切部材13の一部を構成する寸法計測部材14の両側に各存在していることになっているからである。

なお、この符号位置の変更に基づいてなされた訂正事項(2)を加えて訂正明細書を素直に読むと、訂正前矛盾が生じなかった部分に次のような矛盾が生ずることとなる。

すなわち、「螺旋形段部4の上部終端部位は第3図の符号5で示した部分であり、送出板8は部品容器の直径方向に張出した状態であると共にその外周端部9が低くなる姿勢で第4図のごとく仮想水平面10に対して傾斜している。」(審判請求公告公報2頁右欄9ないし14行)の部分と「以上の作動において、上部終端部位5から送出板8にかけて前述のような傾斜が与えてあるためにナットは外周側へ移動しようとし」(同3頁左欄41ないし43行)の説明において、前者においては、明らかに、螺旋形段部の上部終端部位と送出板とは、螺旋形段部のいわば進行方向にむかって縦に接続された位置関係にあり、また、「螺旋形段部」ではなく、「送出板8」だけが「外周部が低くなる姿勢で第4図のごとく(中略)傾斜している」ことが規定されている。

一方、後者においては、「上部終端部位5から送出板8にかけて前述のような傾斜が与えてある」ということより螺旋形段部そのものも「外周部9に低くなる姿勢で(中略)傾斜している」ことになり前者と矛盾が生ずる。

したがって、この点においてもこの符号の位置の変更に係る訂正事項は、本件考案の要旨を実質的に変更するものといえる。

(Ⅱ)訂正事項(3)における「張出し状態」なる用語は当該当初の明細書及び図面並びに本件考案の出願公告公報における考案の詳細な説明及び図面には何らの記載も示唆も存在しないもので、当然その「張出し状態」の作用効果に関する訂正事項(4)についても何らの記載も示唆も存在しないものであり、これら訂正事項(3)及び(4)の追加は明らかに明瞭でない記載の釈明には該当しないものである。

(Ⅲ)訂正事項(1)の訂正は、(Ⅰ)で説明したように「送出板」の位置が変更され、その実質的範囲が訂正前に比し拡張されたものとなって、実用新案登録請求の範囲を実質的に拡張するものである。また、(Ⅱ)で説明したように「張出し状態」は明らかに本件考案の出願当初の明細書及び図面に記載も示唆もされていない事項の追加となり、実用新案登録請求の範囲を実質的に変更するものでもある。

したがって、これらの訂正は、何ら不明瞭な事項の釈明に該当せず、かつ、実用新案登録請求の範囲の減縮を目的とするものでないことが明らかである。

そして、これらの訂正に基づくならば、実用新案登録請求の範囲の解釈において、考案の詳細な説明を参酌するうえで、上部終端部位5に接続される送出板8の形状が変更され、公報掲載時に把握された権利範囲が拡張して解釈されてしまう。

以上のように、本件の訂正は、何ら明瞭でない記載の釈明でなく、また、実用新案登録請求の範囲の減縮を目的とするものでもないので、実用新案法39条1項1号及び3号に適合せず、その結果同条2項に違反すると思料する。

C  そして、審判被請求人(被告)の答弁の概要は、以下のとおりである。

(イ)訂正事項(5)及び(2)について

第4図、第5図そして出願公告公報の記載を総合してみるならば、送出板8の位置は、大部品区域と小部品区域とからなる仕分け構造部7の全域に亘るものとみるべきである。したがって、送出板の符号8の新たな記入は明瞭でない記載の釈明に当たる。

また、上記した送出板8の位置と出願公告公報の記載からみて、上部終端部位5は、仕分け構造部7に接続する、螺旋形段部4の終端と理解するのが自然である。したがって、上部終端部位5の引出線の位置の変更も、明瞭でない記載の釈明に当たる。

(ロ)訂正事項(1)、(3)及び(4)について

出願当初の明細書及び図面を参照すれば、送出板8が張出し構造を有することは容易に理解し得る。したがって、訂正事項(1)の訂正は、送出板の構成をより具体的に示したものであって、請求の範囲の減縮に相当するものであり、しかも、実質上実用新案登録請求の範囲を変更するものでも拡張するものでもない。

また、第3図において送出板8の引出線の位置を変更したことが上記の如く要旨変更に当たらない以上、送出板の引出線の位置の変更を前提とする訂正事項(3)及び(4)の訂正も明瞭でない記載の釈明に当たる。

D  そこで、上記請求の理由について、当審は以下のとおり判断する。

(Ⅰ)について

出願公告公報の図面についてみると、送出板8の位置は、第3図においては、寸法計測部材14の外側部分を引出線により示しているが、第3図仕分け構造部7の始端部(4)-(4)の断面図である第4図においては、螺旋形段部4の内周の延長部(すなわち部品容器の外周壁18)から、仕分け構造部7の外周壁板23に至る外方下向きに傾斜した一体の底板を引出線により示すとともに、第3図の同じく終端部(5)-(5)の断面図である第5図においては、大部品区域11の範囲である、仕切部材13の内側を引出線により示しており、しかも、出願公告公報の第4、5図に関して、「送出板8はその外周端部9が低くなる姿勢で第4図のごとく仮想水平面10に対して傾斜している。送出板8を大部品区域11と小部品区域12とに区分する仕切部材13は…(中略)…。仕切部材13の一部は寸法計測部材で構成され、」(出願公告公報2欄27行ないし34行)と説明されている。

そして、上記各記載を総合してみるならば、送出板8の位置は、原告の主張するように、第3図の引出線により示された、寸法計測部材14の外側範囲のみに限定することは妥当でなく、大部品区域と小部品区域とからなる仕分け構造部7の全域に亘るものとみるべきことは明らかである。しかしながら、原告のように解する余地がある以上、そのような余地をなくするための送出板の符号8の新たな記入は、明瞭でない記載の釈明に当たるというべきである。

また、螺旋形段部4の上部終端部位5の引出線の位置の変更については、第3図が仕分け構造部7の拡大平面図であり、上記したように、送出板8が仕分け構造部の全域に亘るものと認められる以上、その一部を螺旋形段部の上部終端部位とすることは矛盾するとともに、そのように位置づけることに何ら意味がなく、しかも、明細書中の「螺旋形段部4の上部終端部位5には、それに連続した状態で送出板8が接続してあり、」(出願公告公報1欄18行ないし19行、同2欄25行ないし27行)という記載の「連続した状態で(中略)接続してあり」からみても、上記上部終端部位5は、仕分け構造部7に接続する、螺旋形段部8の終端と解することが妥当であるから、上部終端部位5の引出線の位置の変更も、明瞭でない記載の釈明に当たるというべきである。

なお、図面の簡単な説明の項にも記載されているように、第2図は簡略的な平面図であって、第2図において符号5については、単にその概略的な位置が示されているものと解され、また、第4図においては、仕分け構造部7の全域に亘る送出板8を越えて紙面後方側に位置する螺旋形段部4の上部終端部位を示すものとして、符号5が付されているものと解される以上、訂正事項(5)及び(2)による訂正によって螺旋形段部の上部終端部位と送出板との位置関係が第2、4図と第3図とで相互に矛盾するようになった、とする原告の主張は妥当ではない。また、一般に部品用パーツフィーダーにおいて、螺旋形段部がその外周部が低くなる姿勢で傾斜して構成されていることが周知の構造である以上、審判請求公告公報2頁右欄9行ないし14行の「螺旋形段部4の(中略)傾斜している。」なる記載と審判請求公告公報3頁左欄41行ないし43行の「以上の作動において、(中略)移動しようとし、」なる記載とが内容的に矛盾する、とする原告の主張も妥当ではない。

したがって、訂正事項(5)及び(2)の訂正は、明細書の要旨及び実施例の変更である、とする原告の主張は理由がない。

(Ⅱ)について

前項のように、送出板8の位置は、大部品区域と小部品区域とからなる仕分け構造部7の全域に亘るものとみるべきことが明らかである以上、送出板8は部品容器の直径方向に張り出した状態にあるとみるべきであるから、そのような送出板の構成を具体的に示す訂正は、明瞭でない記載の釈明に当たるというべきである。

また、出願当初の図面において、小部品区域12に、過剰部品の落下手段17、26、そして回収手段における受箱19に関連して、上記送出板8が部品容器の直径方向に張り出した状態が明確に示されている以上、それら小部品区域12等に関連して上記送出板8が部品容器の直径方向に張り出した状態に関して作用、効果をより具体的に示す訂正も、明瞭でない記載の釈明に当たるというべきである。

したがって、訂正事項(3)及び(4)の訂正は、明瞭でない記載の釈明に該当しない、とする原告の主張は理由がない。

(Ⅲ)について

前々項において述べたように、送出板8及び上部終端部位5の各位置は、訂正事項(5)及び(2)の訂正によって実質的には変更されたものでなく、また、前項において述べたように、送出板8が部品容器の直径方向に張り出した状態にあることが、明瞭でない記載の釈明に当たる以上、訂正事項(1)の訂正は、送出板の構成をより具体的に示したものであって、請求の範囲の減縮に相当するものであり、しかも実質上実用新案登録請求の範囲を変更するものでも拡張するものでもない。

したがって、送出板8の変更を根拠とする原告の上記(Ⅲ)の主張は理由がない。

そして、本件訂正により螺旋形段部4の上部終端部位5に接続される送出板8の形状が変更されることにならない以上、実用新案登録請求の範囲により把握される権利範囲が拡張して解釈されるという原告の主張も理由がない。

E  以上のことから、原告の主張はいずれも理由がなく、本件訂正を無効とすることはできない。

4  審決を取り消すべき事由

本件考案の訂正前明細書添付の図面に審決認定(前記の3D(Ⅰ)の第1段)の表示及び記載があることは認めるが、審決は、訂正前明細書殊に添付された第3ないし第5図の記載内容の認定を誤り、その結果、訂正事項(5)及び(2)が明瞭でない記載の釈明に当たり、実用新案登録請求の範囲の変更には該当せず、また、訂正事項(3)及び(4)が明瞭でない記載の釈明に該当し、さらに、訂正事項(1)は実用新案登録請求の範囲の減縮に当たって、その変更には該当しない、との誤った判断を導いており、違法であるから、取り消されるべきである。

(1)  訂正事項(5)及び(2)について(取消事由1)

審決は、送出板8の位置が仕分け構造部7の全域に亘るとの認定に基いて、符号8の記入及び螺旋形段部4の上部終端部位5の引出線の変更は、明瞭でない記載の釈明に該当すると判断し、また、訂正事項(5)及び(2)による訂正のため螺旋形段部の上部終端部位と送出板との位置関係が第2図、第4図と第3図とで相互に矛盾するようになったことはなく、訂正事項(5)及び(2)の訂正は、明細書の要旨及び実施例の変更であるとはいえないと判断し、要するに、訂正事項(5)及び(2)の訂正は、明瞭でない記載の釈明に当たり、実用新案登録請求の範囲の変更には該当しないとの結論を導いている。

しかしながら、次のとおり、送出板8の位置が仕分け構造部7の全域に亘るとみることは不自然であり、符号8の記入及び螺旋形段部4の上部終端部位5の引出線の変更は、明瞭でない記載の釈明に該当しないというべきであり、訂正事項(5)及び(2)による訂正のため螺旋形段部の上部終端部位と送出板との位置関係は第2図、第4図と第3図とで矛盾するものとなったといわなければならず、訂正事項(5)及び(2)の訂正は、明細書の要旨及び実施例の変更に該当するから、審決の認定判断は誤っている。

<1> 訂正前明細書及び訂正明細書にそれぞれ添付された第3図ないし第5図を詳細に検討すると、本件考案における上部終端部位5及び送出板8の位置関係は、別紙第3の「訂正前の構成図A」又は別紙第4の「訂正前の構成図B」として表わされたようなものであったのに、本件訂正により別紙第5の「訂正後の構成図」として表わされたものになったことが明らかであり、本件訂正が本件考案に係る実用新案登録請求の範囲を変更する結果を生じていることが判明する。

<2> すなわち、訂正前明細書の第3図を見ると、上部終端部位5は明らかに引出線によって寸法計測部材14の内側を指示し、寸法計測部材14を挟んで送出板8と対向する位置に存在することが分かる。また、第3図の(4)-(4)断面図である第4図においても、寸法計測部材14の外側に送出板8が、内側に上部終端部位5が位置していることが看取され、さらに、第3図の(5)-(5)断面図である第5図においては、送出板8は明らかに仕切部材13の内側にあって、寸法計測部材14の延長線上にある壁の外側に位置している。

<3> また、「螺旋形段部4の上部終端部位5にはそれに連続した状態で送出板8が接続してあり」(出願公告公報2欄25行ないし27行)との記載と第3図及び第4図とを重ね合わせると、上部終端部位5と送出板8とは、寸法計測部材14の下側辺りで連続した状態で接続していることになる。

<4> さらに、「送出板8は、その外周部9が低くなる姿勢で第4図のごとく仮想水平面10に対して傾斜している」(同2欄27行ないし29行)のであるから、少なくとも第3図の(4)-(4)断面部位(第4図)においては寸法計測部材14の外側に存在する送出板8が仮想水平面10に対して傾斜しているものと理解せざるをえない。

この事実は、出願公告公報の考案の詳細な説明部分に「送出振動を受けながら大小のプロジェクションナットが順不同で螺旋形段部4上を進出してくると、その上部終端部位5付近で小ナットは寸法計測部材14の下側を通過して小部品区域12へいたり」(3欄42行ないし4欄2行)とあるように、小ナットは「上部終端部位5付近で」直接「寸法計測部材14の下側を通過」することからも理解される。

もし仮に訂正後の構成を前提としてこの作動を説明するとすれば、「小ナットは上部終端部位5の先へ進出し、上部終端部位5の先方に連続的に接続した送出板8の第3図の(4)-(4)断面部位付近で寸法計測部材14の下側を通過して」といわなければならず、明らかに訂正前明細書の記載とは異なった表現をとらねばならないことになる。

<5> そして、送出板8は、大部品区域11と小部品区域12からなっているが、寸法計測部材14の直径方向外側部分に存在する送出板8の始端部から端縁26に至る仕切部材13の外側部分が小部品区域12に含まれ、寸法計測部材14の終端部から端縁26に至る仕切部材13の直径方向内側部分が大部品区域11に含まれることは、疑いがない。

ところで、「送出板8を大部品区域11と小部品区域12とに区分する仕切部材13」(出願公告公報2欄29行ないし30行)との記載及び「その上部終端部位5付近で小ナットは寸法計測部材14の下側を通過して小部品区域12へいたり、他方大ナットは寸法計測部材14の高さ寸法空間lよりも高いので、寸法計測部材14に摺接しながら大部品区域11へいたる」(3欄末行ないし4欄4行)との記載並びに「24、25は大部品区域と小部品区域に連続する接手管」(3欄39行ないし40行)との記載から、大部品区域11は寸法計測部材14の終端部に始まり、接手管24に至る仕切部材13の内側部分を意味し、小部品区域12は寸法計測部材14の外側に存在する送出板8の始端部から接手管25に至る仕切材13の外側の部分ということになる。

<6> 以上の理由に加えて、第4図には底部に対し引出線により符号5も付されていることを併せると、上部終端部位5と送出板8とは、第3図の(4)-(4)断面部位において、寸法計測部材14の下側辺りで同部材の内側から外側にかけて連続的に接続していると解釈するのが正しいことが分かる。

<7> したがって、符号8の記入及び上部終端部位5の引出線の変更は、明瞭でない記載の釈明に該当しないというべきであるし、符号5の位置は訂正前の第2ないし第4図に明確に示されており、その相互の間に矛盾はなく、かえって、審決のように符号5を「仕分け構造部7の全域に亘る送出板8を越えて紙面後方側に位置する螺旋形段部4の上部終端部位を示すものと」と解釈することは、第2ないし第4図からは不自然であり、訂正事項(5)及び(2)による訂正によって螺旋形段部の上部終端部位と送出板との位置関係は第2図、第4図と第3図とで矛盾し、不合理なものとなったのである。

(2)  訂正事項(3)及び(4)について(取消事由2)

審決は、送出板8は部品容器の直径方向に張り出した状態にあるとみるべきであるから送出板8の構成を示す訂正(訂正事項(3))は明瞭でない記載の釈明に当たると判断し、また、出願当初の図面において小部品区域12、過剰部品の落下手段17、26、そして回収手段における受箱19に関連して送出板8が部品容器の直径方向に張り出した状態が明確に示されているから、送出板8が部品容器の直径方向に張り出した状態に関して作用効果を具体的に示す訂正(訂正事項(4))も、明瞭でない記載の釈明に当たると判断している。

しかしながら、次のとおり、これらの判断は誤っている。

<1> 前記(1)のとおり、大部品区域11及び小部品区域12の位置、形状等から、送出板8の位置を仕分け構造部7の全域に亘るとみることは不自然である。したがって、訂正事項(3)による送出板8が部品容器の直径方向に張り出した状態であるとする記載は意味不明というべきであり、この記載により送出板8の構成が具体的に示されたということはできない。

<2> 訂正事項(4)により追加された送出板の作用効果は、訂正前明細書に一切記載されておらず、もともと不明瞭であったと自認する図面のみからそのような作用効果が生ずるとするもので、明瞭でない記載の釈明の範囲を超えるというべきである。

殊に、「張り出した状態」とは単に「張り出した」というものではなく、「小部品区域をできるだけ広く確保」できるものであることなど特定の広がりを要件とするものであることは追加された作用効果の記載(訂正事項4)から明らかであるが、このようなことが出願当初の図面に開示されているとはいえない。

しかも、「部品容器の直径方向に張り出した状態」なる表現から直ちに訂正事項4の作用効果は演繹されない。なぜならば、訂正前明細書においては、小部品区域12内の停滞を防止する手段としては、「過剰になりそうな小部品を部品容器3内へ回収する手段が必要となり」(出願公告公報3欄23行ないし25行)、その回収手段として「送出板8に排出口17をあけ、その下側に部品容器3の外周壁18に固定した受箱19を設置し、外周壁18に回収口20が設けてある。また、別の構造例としては、排出口17を止めて送出板8の端縁26から過剰部品を受箱19内に落下させる方法もある」(同3欄25行ないし30行)として、排出口17、受箱19、外周壁18の回収口20及び送出板8の端縁26のみが示唆されているにすぎない。換言すれば、本件考案においては、小部品区域12は、本来は、単に小ナットの通路としての意味しかなく、その通路が過密状態になったときは、後続の小ナットによって過剰な小ナットを排出口17又は送出板8の端縁26から落下させて部品容器内へ回収することしか考えていなかったのである。

(3)  訂正事項(1)について(取消事由3)

審決は、訂正事項(1)の訂正は、送出板の構成をより具体的に示したもので、請求の範囲の減縮に相当し、実質上実用新案登録請求の範囲を変更するものでもないと判断している。

しかしながら、前記のとおり、送出板8及び上部終端部位5の各位置は、訂正事項(5)及び訂正事項(2)の訂正で実質的に変更され、かっ、送出板8の張出し状態による作用効果の追加記載が明瞭でない記載の釈明に該当しない以上、訂正事項(1)に基づく「張り出した状態」の実用新案登録請求の範囲への追加は、実質的に実用新案登録請求の範囲の変更というべきであり、審決の判断は誤っている。

第3  請求の原因の認否及び被告の主張

1  請求の原因1ないし3の事実は認める。

2  同4の審決の取消事由は争う(ただし、(1)<5>の前段の事実は認める。)。審決の認定、判断は正当であって、審決に原告主張の違法は存在しない。

(1)  取消事由1について

原告は、送出板8の位置が仕分け構造部7の全域に亘るとみることは不自然であり、したがって、送出板8の記入及び螺旋形段部4の上部終端部位の引出線の変更は明瞭でない記載の釈明に該当せず、訂正事項(5)及び(2)による訂正は、明細書の要旨及び実施例の変更に該当する、と主張する。

しかしながら、次のとおり、この主張は失当であり、その根拠として主張する前記第2の4の(1)<1>ないし<7>の主張も理由がなく、審決の認定判断は正当である。

<1> すなわち、送出板8の位置は、第3図においては、寸法計測部材14の外側部分を引出線により示しているが、第3図仕分け構造部7の始端部(4)-(4)の断面図である第4図においては、螺旋形段部4の内周の延長部(部品容器の外周壁18)から仕分け構造部7の外周壁23に至る外方下向きに傾斜した一体の底板を引出線により示すとともに、第3図の同じく終端部(5)-(5)の断面図である第5図においては大部品区域11の範囲である仕切部材13の内側を引出線により示しており、しかも、第4図、第5図に関し、「送出板8はその外周端部9が低くなる姿勢で第4図のごとく仮想水平面10に対して傾斜している。送出板8を大部品区域11と小部品区域12とに区分する仕切部材13は(中略)。仕切部材13の一部は寸法計測部材で構成され、」(出願公告公報2欄27行ないし34行)と説明されている。したがって、送出板8の位置を第3図の引出線により示された寸法計測部材14の外側範囲にのみ限定することは妥当でなく、大部品区域と小部品区域とからなる仕分け構造部7の全域に亘るものとみるべきものなのである。

<2> そして、第3図では、上部終端部位5及び送出板8の引出線が不明瞭であったため、別紙第3の「訂正前の構成図A」又は別紙第4の「訂正前の構成図B」のように解する余地があった。そこで、そのような余地をなくすべく被告は送出板の符号8を新たに記入して明瞭にしたのであるから、この符号8の記入は明瞭でない記載の釈明に当たるというべきである。

<3> また、上部終端部位5の引出線の位置の変更については、第3図が仕分け構造部7の拡大平面図であり、上記のとおり送出板8が仕分け構造部7の全域に亘ると認められる以上、その一部を螺旋形段部の上部終端部位とすることは矛盾するし、しかも、訂正前明細書中の「螺旋形段部4の上部終端部位5には、それに連続した状態で送出板8が接続してあり」(出願公告公報1欄18行ないし19行、2欄25行ないし27行)という記載のうち「連続した状態で……接続してあり」という部分からも、上部終端部位5は仕分け構造部7に接続する螺旋形段部8の終端と解することが正当であるから、上部終端部位5の引出線の位置の変更も明瞭でない記載の釈明に当たるといわなければならない。

(2)  取消事由2について

原告は、送出板8の位置が仕分け構造部7の全域に亘ることが不自然であることを前提に、訂正事項(3)による訂正が明瞭でない記載の釈明に当たらないし、また、訂正事項(4)により追加された送出板の作用効果の追加も明瞭でない記載の釈明の範囲を超える、と主張する。

しかしながら、前述のとおり、その前提が誤っており、原告の主張は失当であり、審決の認定判断は妥当である。

(3)  取消事由3について

原告は、送出板8及び上部終端部位5の各位置が訂正事項(5)及び訂正事項(2)の訂正により実質的に変更され、かつ、送出板の張出し状態による作用効果の追加記載が明瞭でない記載の釈明に該当しないことを理由に、訂正事項(1)による追加は、実質的に実用新案登録請求の範囲の変更に当たる、と主張する。

しかし、この主張も、前記のとおり前提が間違っているから、失当であり、審決の認定判断は正当である。

第四  証拠関係

本件記録中の証拠目録の記載を引用する(後記理由中において引用する書証は、成立に争いがない。)。

理由

1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、2(本件考案の訂正の要旨)、3(審決の理由の要点)の各事実は、当事者間に争いがない。

2  訂正前明細書の記載及び訂正事項の内容

(1)  甲第2号証によれば、訂正前明細書には、本件考案の技術的課題(目的)、構成及び作用効果について次のとおりの記載がされていることが認められる。

<1>  本件考案は、「寸法の異なる複数種類の部品を供給するパーツフィーダーに関する」(出願公告公報1欄30行ないし31行)ものである。

従来、「パーツフィーダーに複数種類の部品を入れて、種類別に区分しながら送出することが知られているが、(中略)種類別区分が誤ってなされると、間違った部品が供給されることになり、流れ作業に支障を来したり誤品組付となったりする問題がある」(同1欄36行ないし2欄5行)。

本件考案は、この問題を解決することを技術的課題(目的)とする(同2欄6行ないし7行)。

<2>  本件考案は、上記技術的課題を達成するために、「円形の部品容器の内周部に螺旋形段部を設け、該部品容器に送出振動を与えて部品を供給するパーツフィーダーにおいて、螺旋形段部の上部終端部位に連続的に接続した送出板を部品容器の直径方向に張出した状態であると共にその外周端部が低くなる姿勢で傾斜させて設置し、送出板を大部品区域と小部品区域とに区分する仕切部材を部品容器の円周方向にほぼそわせた状態で設け、前記仕切部材の一部を小部品のみを通過させる寸法計測部材で構成し、小部品区域内の過剰小部品を送出板から落下させて部品容器へ回収する手段を設け、前記大部品区域と小部品区域の各々に部品送出用の供給管が接続されていることを特徴とする複数種類の部品パーツフィーダー」(同1欄16行ないし28行)という構成を採用した。

<3>  本件考案は、前記構成により、「螺旋形段部の上部終端部位に接続した送出板が傾斜させられていると共に仕切部材と寸法計測部材を設け、さらに小部品区域内の過剰小部品を送出板から落下させて部品容器へ回収する手段を設けたものであるから、前記上部終端部位に来た小部品はその全てが小部品区域へ区分され、決っして大部品区域へ移送されるようなことがなく、前述の問題を完全に解決する」(同4欄20行ないし27行)という作用効果を奏するものである。

(2)  これに対し、甲第3号証及び前記当事者間に争いがない事実によれば、本件訂正の要旨は、請求の原因2記載のとおりであって、本件訂正の結果、本件考案の技術的課題(目的)、構成及び作用効果の記載が次のとおりとなるべきことが認められる。

<1>  本件考案は、「寸法の異なる複数種類の部品を供給するパーツフィーダーに関する」(審判請求公告公報2頁左欄17行ないし18行)ものである。

従来、「パーツフィーダーに複数種類の部品を入れて、種類別に区分しながら送出することが知られているが、(中略)種類別区分が誤ってなされると、間違った部品が供給されることになり、流れ作業に支障を来したり誤品組付となったりする問題がある」(同2頁左欄23行ないし29行)。

本件考案は、この問題を解決することを技術的課題(目的)とする(同2頁左欄30行ないし31行)。

<2>  本件考案は、上記技術的課題を達成するために、「円形の部品容器の内周部に螺旋形段部を設け、該部品容器に送出振動を与えて部品を供給するパーツフィーダーにおいて、螺旋形段部の上部終端部位に連続的に接続した送出板を部品容器の直径方向に張出した状態であると共にその外周端部が低くなる姿勢で傾斜させて設置し、送出板を大部品区域と小部品区域とに区分する仕切部材を部品容器の円周方向にほぼそわせた状態で設け、前記仕切部材の一部を小部品のみを通過させる寸法計測部材で構成し、小部品区域内の過剰小部品を送出板から落下させて部品容器へ回収する手段を設け、前記大部品区域と小部品区域の各々に部品送出用の供給管が接続されていることを特徴とする複数種類の部品パーツフィーダー」(同2頁左欄2行ないし15行)という構成を採用した。

<3>  本件考案は、前記構成により、「螺旋形段部の上部終端部位に接続した送出板を部品容器の直径方向に張出した状態であると共にその外周端部が低くなるように設置し、仕切部材と寸法計測部材で送出板を二つの部品区域に区分して小部品区域内の過剰小部品を送出板から落下させて部品容器内へ回収する手段を設けたものであるから、つぎのような作用効果がある。すなわち、螺旋形段部に沿って移動して来た部品の内、小部品は全てのものが確実に小部品区域へ送られ決っして大部品区域へ移送されるようなことがない。これは、過剰小部品の回収手段によって部品停滞を防止しているためであると共に送出板の張出し構造によって小部品区域をできるだけ広く確保して回収手段を無理なく設置し、また広い小部品区域によるひっかかりのないスムーズな小部品流動が得られるためである。さらに、送出板の張出し構造は必要な広さを確保できるので過剰部品の落下手段に要する構造や寸法、たとえば接手管24と25の間隔を大きくしたり排出口17の大きさを十分なものにしたりすること、等を必要に応じて無理なく設定できるから、過剰小部品の処理が円滑になし得る。そして、送出板が張出しているものであるから、回収手段の一部に受箱19を採用する場合には、送出板の下側において受箱を部品容器の外周壁に固定することができ、送出板の下側のスペースを有効に活用してコンパクトな構造とすることが可能となる。」(同3頁右欄3行ないし30行)という作用効果を奏するものである。

3  取消事由1(訂正事項(5)及び(2)に関する原告の主張)に対する判断

(1)  本件考案の出願公告公報中の図面に審決認定の表示及び記載があることは、当事者間に争いがなく、また、送出板8は、大部品区域11と小部品区域12とからなっているが、寸法計測部材14の直径方向外側部分に存在する送出板8の始端部から端縁26に至る仕切部材13の外側部分が小部品区域12に含まれ、寸法計測部材14の終端部から端縁26に至る仕切部材13の直径方向内側部分が大部品区域11に含まれることも、当事者間に争いがない。

原告は、符号8の記入及び螺旋形段部4の上部終端部位5の引出線の変更は明瞭でない記載の釈明に該当せず、訂正事項(5)及び(2)による訂正のため螺旋形段部の上部終端部位と送出板との位置関係は第2図、第4図と第3図とで矛盾するものとなったもので、訂正事項(5)及び(2)の訂正は、明細書の要旨及び実施例の変更に該当する、と主張する。

(2)  そこで、まず、寸法計測部材14の直径方向内側部分が大部品区域11に含まれるか否かについて検討する。

甲第2号証と前記2における認定事実によれば、訂正前明細書には、「送出板8はその外周端部9が低くなる姿勢で第4図のごとく仮想水平面10に対して傾斜している。送出板8を大部品区域11と小部品区域12とに区分する仕切部材13は第5〔図〕に見られるごとく板壁のような形態で設置され、部品容器3の円周方向にほぼそわせた状態とされている。仕切部材13の一部は寸法計測部材14で構成され、換言すると仕切部材13の長さは途中まででそれに寸法計測部材14を連続した構成とされ、該部材14は小部品のみを通過させる役目を果している。」(出願公告公報2欄27行ないし37行)、「螺旋形段部4を上昇して来る大小部品の内、小部品は必ず寸法計測部材14を通過しなければならない。」(同3欄10行ないし12行)、「過剰になりそうな小部品を部品容器3内へ回収する手段が必要となり、その構造例として、送出板8に排出口17をあけ、その下側に部品容器3の外周壁18に固定した受箱19を設置し、外周壁18に回収口20が設けてある。」(同3欄23行ないし28行)、「送出振動を受けながら大小のプロジェクションナットが順不同で螺旋形段部4上を進出してくると、その上部終端部位5付近で小ナットは寸法計測部材14の下側を通過して小部品区域12へいたり、他方、大ナットは寸法計測部材14の高さ寸法空間lよりも高いので、寸法計測部材14に摺接しながら大部品区域11へいたる。(中略)小部品区域12内の小ナットは外周壁板23に沿って順次接手管25へ送出されて行く」(同3欄42行ないし4欄9行)、「以上の作動において、上部終端部位5から送出板8にかけての前述のような傾斜が与えてあるためにナットは外周側へ移動しようとし、過剰小部品を送出板から落下させて回収する手段と相まって、小ナットだけが小部品区域12へ送られるようになるのである。」(同4欄14行ないし19行)、「パーツフィーダーに複数種類の部品を入れて、種類別に区分しながら送出することが知られているが、(中略)種類別区分が誤ってなされると、間違った部品が供給されることになり、流れ作業に支障を来したり誤品組付となったりする問題がある。」(同1欄36行ないし2欄5行)、「この考案によれば、螺旋形段部の上部終端部位に接続した送出板が傾斜させられていると共に仕切部材と寸法計測部材を設け、さらに小部品区域内の過剰小部品を送出板から落下させて部品容器へ回収する手段を設けたものであるから、前記上部終端部位に来た小部品はその全てが小部品区域へ区分され、決っして大部品区域へ移送されるようなことがなく、前述の問題を完全に解決するのである。」(同4欄20行ないし28行)との記載があることが認定できる。

この認定事実と前記争いがない事実によれば、送出板8は仕切部材13によって大部品区域11と小部品区域12とに区分されているが、その仕切部材13には寸法計測部材14も含まれていること、送出板8にその外周端部9が低くなるように傾斜を付けた第一の技術的意義は、螺旋形段部4を部品容器3の外周壁に沿って上昇してきた部品の内の小部品を、容器の上壁による案内から解放される位置、すなわち容器の上壁と寸法計測部材14との接合位置以降において小部品区域12へ可及的速やかに誘導することにあること、送出板8は部品容器3の外周壁18との接合部からその外周端部9にかけて連続的に低くなるように全体的に傾斜されていること(この点は、甲第2号証添付の第5図からも明らかである。)が認められる。

そうすると、寸法計測部材14の直径方向内側部分は、寸法計測部材14の直径方向外側部分の小部品区域12に対応するものであり、また、外周端部9が低くなるように傾斜された送出板8の構成部分であることが明らかであって、結局大部品区域11に含まれると判断される。

(3)  この点に関し、原告は、訂正前明細書の第3ないし第5図における上部終端部位5と送出板8との位置関係、訂正前明細書の考案の詳細な説明中小ナットが上部終端部位5付近で直接寸法計測部材14の下側を通過するとの記載、大ナットが寸法計測部材14に摺接しながら大部品区域11へ至るとの記載等を理由に、上部終端部位5と送出板8とは第3図の寸法計測部材14の下側辺りで連続した状態で接続しており、また、大部品区域11は寸法計測部材14の終端部に始まり、接手管24に至る仕切部材13の内側部分のみを意味し、寸法計測部材14の直径方向内側部分は大部品区域11に含まれないとの趣旨の主張をしている。

しかしながら、甲第2号証によれば、訂正前明細書には、「寸法計測部材14を帯状の鉄板で作り仕切部材13と部品容器の上壁縁15との間に架設し」(出願公告公報3欄4行ないし6行)との記載があることが認められ、前記(2)における認定事実ともあわせると、寸法計測部材14は部品容器3の上壁縁15と仕切部材13との間に部品容器3の上壁に連続して架設されていること、螺旋形段部4を容器の外周壁に沿って上昇してくる部品の内の小部品は、寸法計測部材14と部品容器3の上壁縁15との接合位置付近で部品容器3の上壁による案内から解放されると、送出板8の傾斜の作用もあって、可及的速やかに寸法計測部材14を通過して小部品区域12に誘導されることが明らかにされている。原告指摘の訂正前明細書の動作に関する記載は、これらのことを意味するにすぎず、螺旋形段部4の上部終端部位5はまさしくこの寸法計測部材14と部品容器3の上壁縁15との接合位置付近であるといわなければならない。そして、「大ナットは(中略)、寸法計測部材14に摺接しながら大部品区域11へいたる」(出願公告公報4欄2行ないし4行)との記載から直ちに、寸法計測部材14の直径方向内側部分が大部品区域11に含まれないと断ずることも、無理というほかはない。

そうすると、原告指摘の訂正前明細書の記載があるからといって、寸法計測部材14の直径方向内側部分が大部品区域11に含まれると判断するのに妨げはない。

また、上記検討の結果に照らせば、出願公告公報中の第3ないし第5図を比較しても、送出板8と上部終端部位5の位置関係が原告主張どおりであると認めるには足りないうえに、願書添付の図面は明細書に記載された技術的事項を正確に理解することを助けるためのものに留まるから、本件において明細書の記載に従って考案の技術内容を上記のとおり合理的に判断することができる以上、一見すると願書添付の図面が細部において明細書の記載と一致しないかに見える点を一面的にとらえて論ずるのも正当ではないというべきである。

したがって、上記の原告の主張は理由がないというほかはない。

(4)  したがって、寸法計測部材14を含む仕切部材13の全長(送出板8の全長)にわたり、その直径方向外側部分が小部品区域12であり、直径方向内側部分が大部品区域11であると認められ、本件考案における上部終端部位5と送出板8の位置関係は、訂正前明細書の記載上においてもほぼ別紙第5の図面記載のとおりであったといって差し支えない。ところが、訂正前明細書から別紙第3、第4の各図面のように解する余地が全くなかったわけではないから、この点を明瞭にする訂正事項(5)及び(2)は、いずれも明瞭でない記載の釈明に該当するといわなければならない。

(5)  もっとも、原告は、符号5の位置は訂正前の第2ないし第4図に明確に示されており、その相互の間に矛盾はなく、第4図の符号5を審決のように理解することは不自然であり、訂正事項(5)と(2)の訂正により螺旋形段部の上部終端部位と送出板との位置関係は、第2図、第4図と第3図とで矛盾するものになった、と主張する。

しかしながら、前記(2)ないし(4)において検討したとおり、寸法計測部材14の直径方向内側部分も送出板8の大部品区域11に含まれると判断されるのであるから、訂正前明細書2欄25行ないし27行の「螺旋形段部4の上部終端部位5にはそれに連続した状態で送出板8が接続してあり」との記載等と対比すると、訂正前の第3図における上部終端部位の位置を表示する符号5の表示は適切でないことが明らかである。したがって、送出板8の位置を明瞭化するとともに、符号5の位置表示を送出板8の大部品区域11と上部終端部位とが接続する付近に変更すること(訂正事項(5)及び(2))は、明瞭でない記載の釈明というのに妨げはない。

そして、第2図はパーツフィーダー及び仕分け構造部を概略的に示した図であって、その符号の示す位置もさほど厳密なものではなく、符号5は螺旋形段部4のおおよその位置を示すものと理解することができるから、第3図における符号5の位置表示を変更しても、第2図と第3図との間に矛盾という程の差異は生じないということができる。

また、第4図は、仕分け構造部の構成を最も詳しく示す第3図の(4)-(4)断面図であり、第4図における上部終端部位を示す符号5は、訂正前の第3図に記載された符号5の位置を考慮すると、審決のように「仕分け構造部7の全域に亘る送出板8を越えて紙面後方側に位置する螺旋形段部4の上部終端部位を示す」と解するのには無理があり、むしろ訂正前の第3図の符号5の位置に対応するものとして記載されていると理解するのが自然であるといわなければならない。したがって、第3図における符号5の位置表示の変更に伴って、第4図の符号5についても何らかの手当がされるのが望ましいといえるが、第4図を訂正しなかったからといって、本件考案の理解が格別困難になるとは認められず、このことから審決の違法が招来されることはないというべきである。

(6)  そうすると、取消事由1の原告の主張は失当であり、訂正事項(5)及び(2)は、明瞭でない記載の釈明であって実用新案登録請求の範囲の変更には当たらないとする審決の判断には、結局違法はないというほかはない。

4  取消事由2(訂正事項(3)及び(4)に関する原告の主張)に対する判断

(1)  原告は、送出板8の位置を仕分け構造部7の全域に亘るとみることは不自然であるから、訂正事項(3)による送出板8が部品容器の直径方向に張り出した状態であるとする記載は意味不明で、この記載により送出板8の構成が具体的に示されたということはできないし、また、訂正事項(4)により追加された送出板の作用効果は、訂正前明細書に記載されておらず、もともと不明瞭であった図面のみから作用効果が生ずるとするもので、明瞭でない記載の釈明の範囲を超える、と主張する。

(2)  しかしながら、前記3において詳しく検討したとおり、送出板8は、寸法計測部材14を含む仕切部材13によってその全長に亘り大部品区域11と小部品区域12とに区分されるとともに、螺旋形段部4の上部終端部位5に連続した状態で接続されており、仕分け構造部7の全域に亘るといって差し支えない。

そして、甲第2号証によれば、出願公告公報の図面、殊に第3ないし第5図には、大部品区域11及び小部品区域12が部品容器3の外周壁18の直径方向外側に張出した状態が明確に示されていることが、認められる。また、訂正前明細書に、「送出板8に排出口17をあけ、その下側に部品容器3の外周壁18に固定した受箱19を設置し、外周壁18に回収口20が設けてある。」(出願公告公報3欄25行ないし28行)との記載があることは、前記認定のとおりである。

これらの事実によれば、送出板8が部品容器3の直径方向外側に張り出して設けられていることは明らかであるが、甲第2号証によれば訂正前明細書に送出板8がこのような構成を採ることについての明示の記載がないことが認められる。

訂正事項(3)は、送出板8のこの構成を明記することによって、送出板8が部品容器3の直径方向外側に張り出した状態で設けられたことを明確にするものであり、明確でない記載の釈明に当たるといわなければならない。

(3)  訂正事項(4)は、送出板8の張出し構造による作用効果を追加するものであるが、送出板8を張出し構造とすれば、小部品区域12を広く確保することができ、また回収手段等も無理なく設けることができ、さらに送出板8の下側のスペースを有効に利用しうることは、技術上及び経験上明らかであり、その結果スムーズな小部品流動が得られ、過剰小部品の処理が円滑になしうるなど迫加された作用効果が奏されるものと認められる。

そして、前記(2)において検討したとおり、送出板8が部品容器3の直径方向外側に張り出した状態で設けられており、送出板8の張出し構造は訂正前明細書に既に開示されていたのであるから、訂正事項(4)は、訂正事項(1)によって送出板8が部品容器3の直径方向に張り出した状態にあることを本件考案の構成としたことに伴って、訂正前明細書に開示された範囲内でその構成の奏する作用効果を明記したものであって、明瞭でない記載の釈明に該当すると判断することができる。

(4)  そうすると、(1)記載の原告の主張は理由がなく、訂正事項(3)及び(4)の訂正は明瞭でない記載の釈明に該当するとした審決の判断は正当であるというべきである。

5  取消事由3(訂正事項(1)に関する原告の主張)に対する判断

(1)  原告は、送出板8及び上部終端部位5の各位置が訂正事項(5)及び訂正事項(2)の訂正で実質的に変更され、送出板の張出し状態による作用効果の追加記載が明瞭でない記載の釈明に該当しないことを理由に、訂正事項(1)に基づく「張り出した状態」の実用新案登録請求の範囲への追加は、実質的に実用新案登録請求の範囲の変更に当たる、と主張する。

(2)  しかしながら、訂正事項(1)は、送出板が部品容器の直径方向に張り出した状態であることを追加して、本件考案の構成要件を限定することを内容とする訂正であるところ、前記3及び4において検討した結果によれば、訂正事項(2)ないし(5)はいずれも明瞭でない事項の釈明に該当し、また送出板8及び上部終端部位5の各位置は訂正事項(5)及び訂正事項(2)の訂正によって実質的に変更されたものでないから、訂正事項(1)は訂正前明細書に開示された範囲のもので、実用新案登録請求の範囲の減縮に該当するということができ、実質上実用新案登録請求の範囲を変更するものでも、拡張するものでもないというべきである。

(3)  したがって、(1)の原告の主張も失当で、この点に関する審決の判断にも誤りはないというほかはない。

6  よって、審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 成田喜達 裁判官 佐藤修市)

別紙第1

<省略>

別紙第2

<省略>

別紙第3

<省略>

別紙第4

<省略>

別紙第5

<省略>

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